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翡翠館 庭園

デザインを替えてみました。少しは読みやすくなったかも。前のデザインの方が雰囲気はよかったんですが…… イギリスのロマンス小説の作家、ベティー・ニールズの紹介をしていきます。独断と偏見と妄想にもとづくブログです。どうかご容赦を……。
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二人のティータイム

二人のティータイム (原題:Dearest Mary Jane 初版:1994年)

ヒロイン:メリー・ジェーン・シーモア(喫茶店経営)
ヒーロー:トマス・ラティマー(医師・イギリス人)

 この話も好きな話だ……。

 主人公のメリー・ジェーンは幼いころに両親を交通事故で亡くし、伯父の家に世話になっていましたが、その伯父が亡くなった時、彼女は小さなコテージを遺産としてもらいました。彼女はさっそくそのコテージを改装し、生活の糧を得るため喫茶店を始めます。なかなか儲からないけど、一人が食べていく分くらいの収入はそこそこ得られて小さな村の中で平和に暮らしていましたが、ある日、彼女が店を閉めようとしているところにトマスが我儘な女性をつれてやってきます。彼の強引な態度を気に入らないと思ったメリー・ジェーンでしたが、それから偶然のいたずらのように何度かトマスと出会ううちに……。

 1人で喫茶店を切り盛りしているあたり、「聖夜に祈りを」のアマベルに似ているし、流感にかかったメリー・ジェーンを実家に連れて行って看病する(というか、母親に看病させる)あたり、「片思いの日々」に似ているし、トマスが他の女性と結婚すると思い込んで、彼につらく当たって後で後悔するあたり、「大聖堂のある町」に似てる……、とまあ、ニールズおなじみのいろいろな要素が組み合わさってできているような話ですが、それなのにこの話が私の心の中で埋没してしまわず、いつまでもお気に入りの作品になっているのは、この作品はこの作品にしかない要素があって、それがとても印象深いからなのです。

 1つは、メリー・ジェーンがクリスマスに向けて少しでも収入を増やそうと、仕舞ってあった古着を活用して小さな鼠の人形や小物を作って店で売ったり、パーティーに招待された時、ドレスを買う予算がないから、と生地を買って自分でドレスを縫うシーンです。彼女が夜なべ仕事をして一つ一つ丁寧にねずみを作る姿を思い浮かべて思わず涙ぐんでしまいました。いじましい、でも妙に平和で静かなシーンです。

 もう一つはトマスの大立ち回り。ある日、メリー・ジェーンの店に数人の若者が狼藉を働いて店を壊し始めますが、そこに現れたトマスがそのならず者たちを叩きのめします。いや、ほんと。今まで、ヒロインを助けるために悪者を殴ったり脅かしたりするヒーローはいましたが、ここまで徹底的に暴れたヒーローは今まで読んだ中では彼だけです。整形外科のお医者さんなのに、自ら患者を増やすような物凄さ…….倫理的にいいのか?それで。

 ところで、この話の最初に出てきた我儘な女性が、ヒロインの恋敵になるのかと思いきや、実は恋敵になるのはヒロインの実の姉、しかも美人でモデルで都会で華々しい活躍をしているフェリシティです。実の(あるいは義理の)姉(あるいは妹)が恋敵という話も結構ありますよねえ……。でも、結局ヒーローの心を射止めるのは健気で心優しいヒロインです。

 この物語は9月に始まってクリスマスを迎え、そして新年へと続いていきます。まさに今の季節そのもので、秋の夜長に読むにはぴったりの作品だと思います。
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ノルウェーに咲いた恋

ノルウェーに咲いた恋(原題:Heaven Around the Corner、初版1982年)

ヒロイン:ルイーザ・エヴァンズ(看護師)
ヒーロー:サイモン・サヴェージ(建築技師・イギリス人)

 この作品は私のお気に入りのベスト5に入る作品で、もう何回読み返したかわからないくらい好きなんです。でもこの話は他のニールズの作品とはちょっとなんというか……、毛色が変わっているんです。
 主人公のルイーズは看護師でロンドンの病院で働いていますが、実家には血の繋がらない継母がいて(実の母親の死後、父親が再婚し、更に父親も亡くなったという、よくあるパターンです)、彼女は自分の老後の安泰のために、ルイズーに地元の資産家の男性との結婚を強要します。それが嫌でたまらないルイーズは、正看護師の資格を取ったのを機会に、他のもっと遠い所での仕事を探し始めます。そんな時に見つけたのが、肝臓に少し障害のある女性に付き添ってノルウェーまで行くという仕事。もちろん期間は限られていますが、とにかく遠い外国に行けるということでルイーザは直ぐにその仕事に応募し、採用されます。
 雇い主はクラウディア・サヴェージという30歳を少し超えたくらいの大変な美人ですが、言動がどことなく危うい……。それでも実家を遠く離れることができるに越したことはなく、ルイーザはクラウディアとともにノルウェーのベルゲンへと旅立ちます。ベルゲンでの暮らしがある程度落ち着いた頃、現れたのがクラウディアの兄、サイモン・サヴェージ。
 彼の出現によって、ルイーザが知らなかった事実がいろいろと明らかになるのですが、私がこの作品が他の作品とちょっと違うと思うのは、このヒーローとそしてヒロインのキャラクターのせいなのです。サイモンは黒髪でハンサム、長身ですが他のヒーローと違って痩せています。ニールズ作品のヒーローと言えば医者が定番ですが、彼は建築技師。それにニールズ作品のヒーローにしては言動が粗野。まあ、野性的と言った方が聞こえはいいかもしれませんが……。言葉遣いは荒いし、話しながらポケットのなかの小銭をちゃらちゃら鳴らすとか他のヒーローではありえない。『聖夜に祈りを』のオリバーなんかとは対照的です。で、一方ヒロインのルイーザの方は、そんな荒々しいサイモンに全然負けていない。毒舌というほどではないけど、言いたいことはきっぱり言うし、サイモンがどんなに不機嫌になっても動じません。彼女は美人ではありませんが、それで卑屈になったりしないし、食事を同席したサイモンがむっつり不機嫌そうにしていても、しっかり自分の食事を楽しむことができ、その上「恋人に裏切られたのだろうか」と考え、思わず笑ってしまうほど神経が太い……。
 実は、ルイーザがこんな風にサイモンと堂々と渡り合えるのは、彼女が彼に恋をしていることに気が付くのがとーっても遅いからなんです。いや、もう、後半も後半。156ページ中、138ページですからね彼への恋心に気が付いたのは。この鈍さは「レイチェルの青い鳥」のレイチェルと張り合える……。しかも、他の恋人がいたから気が付かなかったのではなくて、他に思いを寄せる恋人など全くいないのに気付かないって……。サイモンの方はもう少し早く彼女への恋心に気付いていたんですけどね。

 なぜなのかうまくは説明できないのですが、この作品は、何となく他の作品と比べてカラッとしてるんです。ルイーザが鈍いおかげで、ヒロインが悶々と悩むシーンが圧倒的に少ないからじゃないか、とか、この作品の場合、恋敵が存在しないからじゃないかと思ったりするんですが、どうなんだろう。ニールズ自身、ちょっと変わった作品が書きたくなって書いたんじゃないかなとも考えたりします。だとしても、その違いに気が付いた人がどれくらいいるのかな、というか、ニールズは実は他の作品と同じように書いたつもりかもしれないし……。どうなんでしょう?謎だなあ。

幸せをさがして

幸せをさがして(原題:The Promise of Happiness 初版:1979年)

ヒロイン:レベッカ(ベッキー)・ソーンダース(看護師)
ヒーロー:ティーレ・ラウケマ・ファン・デン・エック(医師 オランダ人)

 ニールズの作品って、以前も書いたことがありますが、秋に始まってクリスマスか新年にクライマックスをむかえる作品が多いような気がします。夏なんだから、夏の季節の作品を……と思うものの、なかなかピンとこなくて、ブログを書くのに結局冬の作品を選んでしまうことがしばしば……。でもよくよく考えればあるんですよね。この「幸せをさがして」も夏の作品です。

 ヒロインのレベッカ(ベッキー)は以前「誰が一番貧乏か」のテーマで書いた時、1.2を争う貧乏人として書きましたが、本当に彼女は貧乏だし、それに境遇も過酷。不幸せなヒロインのパターンの一つ、「継母および、その連れ子に苛められる」の典型ともいえる境遇で、かわいがっている犬と猫を人質、いや、犬質、猫質にとられ、小遣いさえも与えられないままこき使われ、とうとう我慢できなくなって家出したところを、ティーレに拾われます。雨の中、濡れそぼって歩いているベッキーを通りかかったティーレが車に乗せたのが2人の出会いですから、文字通り拾われたんです。

 ティーレは何でも自分の思い通りに行動するという傲慢な一面を持っていますが、それでも非常に親切な人間であることには違いなく、ベッキーを母親付の看護師として雇い、ノルウェーまでの旅に付き添わせ、その間、二匹の動物たちを引き取ってオランダで世話をして(実際に世話をしたのはもちろん彼の使用人たち)くれて、母親の看護が必要なくなると、ベッキーに仕事と住むところを世話してあげます。この場合、ベッキーが美人だったらそこまでの親切もわからないではないのですが、ベッキーはごくごく平凡な顔立ちで、しかも極度に痩せていて、決して魅力的な女性ではありません。彼自身、母親や妹にベッキーのことを「痩せすぎの鼠」とか、「魅力を感じない」とかはっきり言ってますから、そうだとしたら、そのボランティア精神には頭が下がります。まあ、それも男爵で大金持ちの人間であるからこそできる余裕の行動なのでしょうか。

 さて、そんなふうにベッキーを酷評していたティーレが、彼女の世話を焼いているうちに、いつの間にか彼女にに興味を持ち、次第に愛するようになっていきます。ベッキーの方は本当は出会った時から彼に恋をし始めているのですが、それに気づくのはずいぶん後になってからのことで、それに気が付いた瞬間、彼女は絶望の淵に立たされます。「こんなことは月に恋するようなものだわ!」
 
 実際に、ベッキーとティーレは境遇的に天と地ほども離れていますが、ニールズの作品の中では、家柄とか環境的に釣り合っていると思われるカップルは私が読んだ範囲では1作品にしか出て来ません。ほとんどのカップルは、言うなれば身分違い。でも、ハンサムでお金持ちのヒーローが貧しくて美人ではないヒロインと恋に落ちる話は山ほどあります。それがロマンス小説だから当然と言えば当然ですが、でもよくよく考えると不思議じゃありませんか?容姿も家柄も財産にも恵まれたヒーロなら、どんな高スペックの女性でも振り向かせることができるし、口説くことも出来るし、そして確実に手に入れることも出来る。なのになぜほとんど何も持っていないようなヒロインを愛するのか。ほとんどの作品では、どうしてヒーローがヒロインを好きになったのかという説明はなされていないような気がしますが、この作品にはそのヒントになるようなことが書かれてありました。

 「美しさはいろいろな種類がある。君は森の奥にある小さな池を見たことがあるかい?それは素晴らしく美しいが、少しも華やかなところはない。ただ平穏で、静かなだけだ。しかし、途方もなく人をひきつける」とティーレはベッキーに言います。ああ、なるほど、そういうことか。と納得しましたが、悲しいかな、彼の次のセリフの意味がよくわからないのです。「美とは幸福の約束にほかならない」……これがこの作品の原題なんですけどね……。どういう意味なんだろう……?

 でもまあ、要するに、人間は外見ではなくて、心根なのだということなんですね。でも、その論理でいくと、美しいヒロインが、貧乏でハンサムでもない男性と恋に落ちるというロマンスがあってもいいと思いますが、それはそれ、やっぱり読んでる方としては、ヒーローはハンサムに越したことはないと思うのは私だけでしょうか。

Damsel in Green

Damsel in Green(邦訳されているかどうか不明、初版:1976年?)
 

ヒロイン:Georgina Rodman(看護師)
ヒーロー:Julius Van den Eyffert(医師、オランダ人)
 

 季節とは裏腹に、前回同様、秋から新年にかけてのお話です。英文で読みましたが、読み終わるのに、2か月以上かかりました。ほとんど、歯医者と病院の待ち時間だけで読んでいたような気がします。長い時間がかかったし、よくわからないところは読み飛ばしたりしたので、内容的に間違っているところがあるかもしれませんが、ご容赦ください。邦訳版が出版されたら、しっかり読み直していただけたらと思います。

 この話に出てくる登場人物たちの人間関係はちょっと複雑なのですが、整理するとこうなります。Juliusの父親とKarelの父親は兄弟で、Karelの母親が亡くなった後に再婚した女性がJuliusの母親の年の離れた妹で、その女性との間に生まれたのがCornelis(愛称Cor。7歳)とBeatrix(5歳くらい)。つまり、Karelはこの二人の異母兄にあたり、もちろん、Juliusの従弟でもあります。実は、KarelとCorの間に、Dimphena(16歳)とFranz(年齢がちょっとわからないのですが)という二人の子供がいて、詳しく書かれていなかったのだけど、Franzが笑ったところがKarelに似ているという表現があったので、たぶんKarel、Dimphena、Franzの3人は母親が同じなのでしょう。そして、この兄弟の父親、つまり、Juliusの叔父が亡くなった時、Juliusはこれら5人の子供たちの後見人として面倒をみることになったのです。 

 さて、Georginaは病院の救急病棟で働いていましたが、そこへある夜、怪我をしたCorとBeatrixが運びこまれます。Beatrixは頭部の軽いけがでしたが、Corは足を骨折していて長期入院が必要となります。そこで以前からその病院にかかわりのあったJuliusは、Corを退院させて自宅で療養させるために、Georginaに住み込みでの看護を依頼します。Georginaは突飛で、しかも、丁寧ではあっても断れそうにないようなJuliusの頼み方に戸惑いながらも、結局は看護を引き受けます。一つには病院で看護をしているうちに、CorとBeatrixが大好きになっていたからで、もう一つにはJuliusに最初に合って以来、彼のことが頭から離れなかったからです。とどのつまりは、一目ぼれってやつです。

  恋愛小説って、例えお互いに人目一目見た瞬間恋に落ちたとしても、ヒロインとヒーローの間に何か障害がないと面白くありません。障害のない、幸せな2人の関係だけを描いたものはただののろけ話ですよね。だからニールズの小説には様々な障害(ヒロインには婚約者がいるとか、ヒーローに婚約者がいるとか、ヒーローが意地悪だとか)が出てきますが、この作品における障害は、ヒロイン側からすればヒーローがよそよそしいということで、ヒーローからすれば、Karelという、自分よりはずっとGeorginaに歳が近い従弟の存在、ということになると思います。
 Georginaにとって、Karelの存在は、弟みたいなものなので、全く問題ではないのですが、Juliusのよそよそしさは、ちょっと問題。家にいる間、ずっと制服を着ていること、と条件を付けるし、GeorginaのことをいつもMiss Rodman とか、nurseと呼ぶし、そもそも仕事で飛び回ってあまり家にいないし、新年はGeorginaとCorを置き去りにしてほかの子供たちを連れてオランダに行ってしまうし。これではGeorginaが「どうせ私は看護師としてしか見られてないんだわ」と思っても仕方ない。おまけに「もうすぐ結婚するんだ」とほのめかし、Georginaを落胆させます。ああ、このあたり、よくあるパターンだな。ヒーローはヒロインと結婚するつもりなのに、あえて誰と結婚するとは言わない……。機が熟するのを待ってるんでしょうかねえ。ヒロインにしてみたら迷惑な話だと思うのですが。とは言っても、結末はいつものハッピーエンドなので、ご安心ください。この二人の結婚後の幸せな生活については、“A Small Slice of Summer”に出てきます。

 ところで、私がこの作品で一番押したいのは、実はヒーローでもヒロインでもなくて、Beatrixなんです。もう、本当にかわいいんです。邦訳版でもこのかわいらしさが省かれることなく描かれたらいいなあと思っています。

 

運河の街

運河の街(原題:The Fateful Bargain、初版:1989年)

ヒロイン:エミリー・グレンフェル(看護学生)
ヒーロー:セバスチャン・ファン・テックス(医師、オランダ人)

 これは最初に英文で読んで、それからどうしても日本語で読みたくて買った本、そう、私のお気に入りの一冊です。
 エミリーは数年前に母親を亡くし、看護師になるために見習い看護師としてロンドンの病院で働いています。リウマチのために歩けなくなった父親の手術費用を貯めようと、切り詰めた生活をしていて、容姿も平凡で、周囲の男性からは感じのいい子と見られていても、デートに誘われることなどほとんどなく、ひたすら地味な生活を送っている……、そんな時、出会ったのがオランダからエミリーの働く病院にやってきたセバスチャンです。
 普通なら、セバスチャンのような偉い顧問医がエミリーのような平凡な看護学生を気に掛けることはないのですが、セバスチャンにはある目的があり、その目的のためにエミリーに近づいていきます。それは、ポリオを患って以来、足が動かなくなった彼の妹の看護(看護というか、励まして、歩くための練習を続けさせるため励ます)をエミリーに頼むということでした。その代わりに、彼はエミリーの父親が歩けるようになるための手術をする(経費の一切をセバスチャンが負担した上で)という、ある意味、取引を申し出るのです。看護学校での訓練期間があと1年残っているエミリーは、訓練が中断されることを不満に思いますが、それでも、父親の足が元通りになるのなら、しかも費用がかからないというのなら、こんないい条件を飲まない手はありません。エミリーはセバスチャンの妹の看護を引き受け、オランダに渡ります。

 話は、オランダの小都市デルフトを舞台にして、淡々と進んでいきます。エミリーがセバスチャンの屋敷を物色していた窃盗犯に詰め寄り、殴られ気絶するという事件が起こりますが、それ以外はルシーリア(根は素直ないい娘なんだけど、超わがままになる時がある)にどうリハビリをさせるかという事と、セバスチャンが連れてきた友人の弟ディルクとルシーリアの恋の芽生えが中心で、あとは聖ニコラス祭りやクリスマス、新年などのオランダの風習が紹介されていて、肝心のエミリーとセバスチャンの関係は全くと言っていいほど進展しません。エミリーはルシーリアと話をしている途中で、自分がセバスチャンに恋をしていることに気が付きますが、自分と彼とでは境遇が違い過ぎると最初からその恋をきっぱり諦めようとするし、セバスチャンもオランダに戻ってから次第にエミリーから距離を置きはじめ、エミリーが強盗に襲われてからはますますよそよそしくなって行くのです。

 これは好みの問題なんですが、私は勝気な女性より、控えめな女性の方が好きだし、自分の気持ちに正直に行動する女性より、思慮深くていろいろなことを考えた挙句、自分から諦めてしまうような女性の方が好きです。今の社会では、明らかに「負け組」に入れられてしまうであろうとわかっていても。
 自分に自信を持っていて、欲しいものを手に入れるためにはどんな努力も惜しまない、そんな人しか人生の勝利者になれないような今の世の中で(もちろん、そんな逞しい人たちの努力や行動力には心から敬意を払います)、自慢できるものは何一つ持っていなくて、好きになった男の人もすぐに諦めてしまうような女性でも、ちゃんとその優しい心根をわかってくれて、愛してくれる王子様のような最高の男性が現れる。現実にはほとんどありえない、そんなおとぎ話がちりばめられているのがニールズのロマンス小説で、それが私を引き付けるのであり、それが私の癒しになっているのです。

 だから、エミリーはそんなニールズ作品のヒロインの代表選手と言っていいでしょう。そして、セバスチャンはエミリーの父親に最後の手術をした後、エミリーを捕まえて言うのです「初めて会った時から君を愛していた」と。現実では「ありえねー」と思ってしまう設定でも、いや、もしかしたら、この世の中に一つ二つはあるかもしれない。でも、もしなくても大丈夫。ニールズの作品があるからね。

 

Tabitha in Moonlight

Tabitha in Moonlight(邦訳されているかどうか不明)
 

ヒロイン:Tabitha Crawley(看護師)
ヒーロー:Marius van Beek(医師、オランダ人)
 

 ニールズの作品の中には、一般的にシンデレラストーリーと呼ばれるような作品(不遇なヒロインが、裕福な男性を射止めて幸せな結婚をする)が幾つか、というより、多数ありますが、この話は本当の意味でシンデレラストーリーです。
 ヒロインのTabithaは数年前に父親を亡くし、自分が相続するはずの屋敷を継母に奪われ、その継母にはあからさまに嫌われ、「あなたは不器量だ」と面と向かって言われ、継母の娘、つまり、義理の妹Lilithにも嫌われ、嫌味を言われ……、ロンドンで看護師の仕事に就いていたことをいいことに、体よく屋敷から追い払われたような格好で、昔からCrawley家に仕えているメグと一緒にロンドンのフラットで暮らしています。故郷をとても愛しているTabithaですが、継母と義理の妹のことを考えると、実家に帰るのも躊躇してしまう……。そんな時現れたのがMariusです。
 Tabithaの勤める病院の整形外科医のMr.Raynardが足を骨折して仕事ができなくなり、彼が自分の代役として招聘したのがMarius。しかも、彼はCrawley家の古い知り合いと知り合いだったため、義妹のLilithも彼を知ることとなります。自分の美貌に絶対的な自信をもっているLilithは、数回会っただけで彼の恋人気取りになり、なんだかんだとMariusに付きまとい、またMariusもしっかりそれに応じてしまいます。彼に恋をしているTabithaにあてつけるように……。
  前半部分は、そういうMariusの態度がとっても嫌でした。Mariusのような男性が、Lilithのような女の子を相手にするわけないと思っていても、いや、思っているからこそ、「何でそんなに足しげくCrawley家に通うわけ?」と読んでいてフラストレーションがたまるたまる。しかも、わざわざ「これからLilithに会いに行くんだ」とTabithaに言ってから行くところも、なんだかなー、と納得できない。おかげでTabithaはMariusがLilithを愛しているのだと思い込んでしまうのです。
 実は、最後の最後で、このMariusの行動の理由がすべて明かされます。だから、まあ、結果的にはよかったんですが、とにかく前半はTabithaがかわいそうでかわいそうで、「頑張れ!Tabitha」と読みながら応援してました。こんなに力を込めて応援したヒロインは初めてです。
 後半、舞台はオランダのMariusの家に移ります。足を骨折したMr.Raynardと、同じように骨折で入院しているMr.Bow(実は彼はMariusの学生時代のチューターで、かつ友人)の静養のため(実際はヨットでセーリング三昧をするためなので、全然静養になってないんだけど)Mariusが2人をオランダの家に招待し、Tabithaはその付添看護婦として同じように招かれたのです。ああ、これでMariusとLilithをしばらくの間引き離すことができる、と喜んだのもつかの間、なんと継母のMrs.CrawleyとLilithaがオランダにやってきてしまいます。なーんーでー!
 ヒロインが継母にいじめられるという話は他にもいくつかありますが、いや、もう、たぶん、継母の中ではこのMrs.Crawleyが最悪じゃないかな。そのうち、最悪継母選手権でもやってみようかなと思いますが、ここまで酷い継母は「悲しきシンデレラ」に出てくる継母と双璧をなすかもしれない……。
 結論から言えば、MariusはLilithに会う前からTabithaと結婚しようと決めていて、Lilithたちと関わったのも、みんなTabithaのためだったのです。最後の最後でMariusが説明してくれたおかげでフラストレーションは解消。本当に溜飲が下がる思いでした。
 ニールズの話としては長ーい話でしたが、頑張って読んだ甲斐がありました。これはそんなお話です。

ケーキで恋を

ケーキで恋を(原題:Cassandra by Chance、初版1982年)
 
ヒロイン:カッサンドラ・ダーリン(看護師)
ヒーロー:ベネディクト・ファン・マンフェルト(医師、オランダ人)
 
 この作品はハーレクインのベテラン作家の初期の作品を復刻する企画で出版されたようです。帯に、「ニールズにこんなヒーローがいたなんて」と書かれてありました。こんなヒーローって、どんなヒーロー?と思いながら読んでいきました。
 確かに、ニールズの作品の中では珍しいタイプのヒーローです。ベネディクトは穏やかなときもありますが、皮肉屋で度々癇癪を起こす。ニールズのヒーローは穏やかで優しいヒーローが多いので、まあ、変り種と言えば変り種ですが、こんなヒーローが他にいないわけではない……。「教授と麦わら帽子」のチャールズとか「ノルウェーに咲いた恋」のサイモンとか。むしろ、ベネディクトに特徴的なのは性格ではなくて、彼の境遇です。医者で裕福、というのは他のヒーローと同じですが、彼の場合、目を患っていて、微かに光の明暗がわかるものの、ほとんど目が見えないのです。しょっぱなからこんなハンディ背負ってるヒーローには初めてお目にかかりました。彼の癇癪も、とどのつまりは、また目が見えるようになって仕事に戻れるのか、という不安から来てるんですよね。で、そんな彼をヒロインのカッサンドラが支え、励ますのです。

 実は、私にとっては、ヒーローよりも、ヒロインのカッサンドラの方が新鮮でした。冒頭部分で、彼女は「物静かでおとなしい」性格だと表現されていますが、とんでもない。
甥のアンドリューから、「人食い鬼の隠れ家」があると聞くと、こっそり見に行ったり、家の中を覗くために不法侵入しようとしたり、ひどいベネディクトの毒舌にも敢然と立ち向かい言い合いをする。これのどこが「物静かでおとなしい」わけ?

 旅行に行った姉夫婦の子供の面倒を見ながらカッサンドラは、「人食い鬼の隠れ家」に住んでいるベネディクトと、彼の使用人(?)ヤンとの交流を重ねていきます。ベネディクトの性格が性格だし、目の事で苛立つベネディクトと付き合うのは本当に大変そうですが、どんなに毒舌を吐かれても、また会いに行きたくなるカッサンドラ。ある時、カッサンドラが庭を掃除していると、ヤンがやってきて、ベネディクトに会いに来てくれないかと頼みます。すぐにでも行きたい気持を抑えて「忙しいからまた次にでも」と答えたカッサンドラですが、ヤンからベネディクトがひどい頭痛がしていると聞かされると、箒を投げ出してすぐにベネディクトの下へ飛んで行こうとする……。あれ?誰かに似てるかも、と思い、ふと頭に浮かんだのが「サザエさん」でした。確かに、明るくて、誰にでも親切。好奇心旺盛で他人に物怖じしない。しかも、甥のアンドリューと姪のペニーはカツオとワカメ的存在になってるし。あー、サザエさんがロマンス小説のヒロインになったらこんなかも、と思わず1人で納得してしまいました。もっとも、ヒーローのベネディクトはマスオさんとは対極にいるような人ですが。
 
 ある程度目が良くなっていると分かったベネディクトはオランダに帰ることになり、カッサンドラは看護師としてついて来てくれないかと頼まれます。最初は拒みますが、結局はついていくことにしたカッサンドラ。そして姉夫婦が帰ってくるのを待って、オランダに渡り、看護師としてベネディクトに付き添う生活が始まります。これからあとはベネディクトに係わる女性たちについて暴走する妄想と戦うカッサンドラの姿が痛ましい……。ベネディクトはベネディクトで検査の結果を悲観してまた癇癪を起こした挙句、カッサンドラの妄想を利用して彼女と別れようとするし……。
 
 でも、最後の最後で、ベネディクトはカッサンドラをつかまえます。「言っておくけど、僕は非常に気難しくて一緒に暮らしにくい男かもしれない。しかし、僕は死ぬまで、いや、あの世までも君を愛し続けるよ」……なかなかいいプロポーズの言葉だなあと思いました。気難しくて怒りっぽくても、彼は正直な男です。
 
 
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HN:
Mrs Green
年齢:
58
HP:
性別:
非公開
誕生日:
1965/07/23
職業:
主婦
趣味:
ありすぎて書ません
自己紹介:
夫と子供2人の専業主婦です。
宮崎生まれで、現在沖縄に住んでいます。
青い海も好きですが、それよりふるさとの緑の山々が恋しい……。
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