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翡翠館 庭園

デザインを替えてみました。少しは読みやすくなったかも。前のデザインの方が雰囲気はよかったんですが…… イギリスのロマンス小説の作家、ベティー・ニールズの紹介をしていきます。独断と偏見と妄想にもとづくブログです。どうかご容赦を……。
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二人のティータイム

二人のティータイム (原題:Dearest Mary Jane 初版:1994年)

ヒロイン:メリー・ジェーン・シーモア(喫茶店経営)
ヒーロー:トマス・ラティマー(医師・イギリス人)

 この話も好きな話だ……。

 主人公のメリー・ジェーンは幼いころに両親を交通事故で亡くし、伯父の家に世話になっていましたが、その伯父が亡くなった時、彼女は小さなコテージを遺産としてもらいました。彼女はさっそくそのコテージを改装し、生活の糧を得るため喫茶店を始めます。なかなか儲からないけど、一人が食べていく分くらいの収入はそこそこ得られて小さな村の中で平和に暮らしていましたが、ある日、彼女が店を閉めようとしているところにトマスが我儘な女性をつれてやってきます。彼の強引な態度を気に入らないと思ったメリー・ジェーンでしたが、それから偶然のいたずらのように何度かトマスと出会ううちに……。

 1人で喫茶店を切り盛りしているあたり、「聖夜に祈りを」のアマベルに似ているし、流感にかかったメリー・ジェーンを実家に連れて行って看病する(というか、母親に看病させる)あたり、「片思いの日々」に似ているし、トマスが他の女性と結婚すると思い込んで、彼につらく当たって後で後悔するあたり、「大聖堂のある町」に似てる……、とまあ、ニールズおなじみのいろいろな要素が組み合わさってできているような話ですが、それなのにこの話が私の心の中で埋没してしまわず、いつまでもお気に入りの作品になっているのは、この作品はこの作品にしかない要素があって、それがとても印象深いからなのです。

 1つは、メリー・ジェーンがクリスマスに向けて少しでも収入を増やそうと、仕舞ってあった古着を活用して小さな鼠の人形や小物を作って店で売ったり、パーティーに招待された時、ドレスを買う予算がないから、と生地を買って自分でドレスを縫うシーンです。彼女が夜なべ仕事をして一つ一つ丁寧にねずみを作る姿を思い浮かべて思わず涙ぐんでしまいました。いじましい、でも妙に平和で静かなシーンです。

 もう一つはトマスの大立ち回り。ある日、メリー・ジェーンの店に数人の若者が狼藉を働いて店を壊し始めますが、そこに現れたトマスがそのならず者たちを叩きのめします。いや、ほんと。今まで、ヒロインを助けるために悪者を殴ったり脅かしたりするヒーローはいましたが、ここまで徹底的に暴れたヒーローは今まで読んだ中では彼だけです。整形外科のお医者さんなのに、自ら患者を増やすような物凄さ…….倫理的にいいのか?それで。

 ところで、この話の最初に出てきた我儘な女性が、ヒロインの恋敵になるのかと思いきや、実は恋敵になるのはヒロインの実の姉、しかも美人でモデルで都会で華々しい活躍をしているフェリシティです。実の(あるいは義理の)姉(あるいは妹)が恋敵という話も結構ありますよねえ……。でも、結局ヒーローの心を射止めるのは健気で心優しいヒロインです。

 この物語は9月に始まってクリスマスを迎え、そして新年へと続いていきます。まさに今の季節そのもので、秋の夜長に読むにはぴったりの作品だと思います。
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ノルウェーに咲いた恋

ノルウェーに咲いた恋(原題:Heaven Around the Corner、初版1982年)

ヒロイン:ルイーザ・エヴァンズ(看護師)
ヒーロー:サイモン・サヴェージ(建築技師・イギリス人)

 この作品は私のお気に入りのベスト5に入る作品で、もう何回読み返したかわからないくらい好きなんです。でもこの話は他のニールズの作品とはちょっとなんというか……、毛色が変わっているんです。
 主人公のルイーズは看護師でロンドンの病院で働いていますが、実家には血の繋がらない継母がいて(実の母親の死後、父親が再婚し、更に父親も亡くなったという、よくあるパターンです)、彼女は自分の老後の安泰のために、ルイズーに地元の資産家の男性との結婚を強要します。それが嫌でたまらないルイーズは、正看護師の資格を取ったのを機会に、他のもっと遠い所での仕事を探し始めます。そんな時に見つけたのが、肝臓に少し障害のある女性に付き添ってノルウェーまで行くという仕事。もちろん期間は限られていますが、とにかく遠い外国に行けるということでルイーザは直ぐにその仕事に応募し、採用されます。
 雇い主はクラウディア・サヴェージという30歳を少し超えたくらいの大変な美人ですが、言動がどことなく危うい……。それでも実家を遠く離れることができるに越したことはなく、ルイーザはクラウディアとともにノルウェーのベルゲンへと旅立ちます。ベルゲンでの暮らしがある程度落ち着いた頃、現れたのがクラウディアの兄、サイモン・サヴェージ。
 彼の出現によって、ルイーザが知らなかった事実がいろいろと明らかになるのですが、私がこの作品が他の作品とちょっと違うと思うのは、このヒーローとそしてヒロインのキャラクターのせいなのです。サイモンは黒髪でハンサム、長身ですが他のヒーローと違って痩せています。ニールズ作品のヒーローと言えば医者が定番ですが、彼は建築技師。それにニールズ作品のヒーローにしては言動が粗野。まあ、野性的と言った方が聞こえはいいかもしれませんが……。言葉遣いは荒いし、話しながらポケットのなかの小銭をちゃらちゃら鳴らすとか他のヒーローではありえない。『聖夜に祈りを』のオリバーなんかとは対照的です。で、一方ヒロインのルイーザの方は、そんな荒々しいサイモンに全然負けていない。毒舌というほどではないけど、言いたいことはきっぱり言うし、サイモンがどんなに不機嫌になっても動じません。彼女は美人ではありませんが、それで卑屈になったりしないし、食事を同席したサイモンがむっつり不機嫌そうにしていても、しっかり自分の食事を楽しむことができ、その上「恋人に裏切られたのだろうか」と考え、思わず笑ってしまうほど神経が太い……。
 実は、ルイーザがこんな風にサイモンと堂々と渡り合えるのは、彼女が彼に恋をしていることに気が付くのがとーっても遅いからなんです。いや、もう、後半も後半。156ページ中、138ページですからね彼への恋心に気が付いたのは。この鈍さは「レイチェルの青い鳥」のレイチェルと張り合える……。しかも、他の恋人がいたから気が付かなかったのではなくて、他に思いを寄せる恋人など全くいないのに気付かないって……。サイモンの方はもう少し早く彼女への恋心に気付いていたんですけどね。

 なぜなのかうまくは説明できないのですが、この作品は、何となく他の作品と比べてカラッとしてるんです。ルイーザが鈍いおかげで、ヒロインが悶々と悩むシーンが圧倒的に少ないからじゃないか、とか、この作品の場合、恋敵が存在しないからじゃないかと思ったりするんですが、どうなんだろう。ニールズ自身、ちょっと変わった作品が書きたくなって書いたんじゃないかなとも考えたりします。だとしても、その違いに気が付いた人がどれくらいいるのかな、というか、ニールズは実は他の作品と同じように書いたつもりかもしれないし……。どうなんでしょう?謎だなあ。

幸せをさがして

幸せをさがして(原題:The Promise of Happiness 初版:1979年)

ヒロイン:レベッカ(ベッキー)・ソーンダース(看護師)
ヒーロー:ティーレ・ラウケマ・ファン・デン・エック(医師 オランダ人)

 ニールズの作品って、以前も書いたことがありますが、秋に始まってクリスマスか新年にクライマックスをむかえる作品が多いような気がします。夏なんだから、夏の季節の作品を……と思うものの、なかなかピンとこなくて、ブログを書くのに結局冬の作品を選んでしまうことがしばしば……。でもよくよく考えればあるんですよね。この「幸せをさがして」も夏の作品です。

 ヒロインのレベッカ(ベッキー)は以前「誰が一番貧乏か」のテーマで書いた時、1.2を争う貧乏人として書きましたが、本当に彼女は貧乏だし、それに境遇も過酷。不幸せなヒロインのパターンの一つ、「継母および、その連れ子に苛められる」の典型ともいえる境遇で、かわいがっている犬と猫を人質、いや、犬質、猫質にとられ、小遣いさえも与えられないままこき使われ、とうとう我慢できなくなって家出したところを、ティーレに拾われます。雨の中、濡れそぼって歩いているベッキーを通りかかったティーレが車に乗せたのが2人の出会いですから、文字通り拾われたんです。

 ティーレは何でも自分の思い通りに行動するという傲慢な一面を持っていますが、それでも非常に親切な人間であることには違いなく、ベッキーを母親付の看護師として雇い、ノルウェーまでの旅に付き添わせ、その間、二匹の動物たちを引き取ってオランダで世話をして(実際に世話をしたのはもちろん彼の使用人たち)くれて、母親の看護が必要なくなると、ベッキーに仕事と住むところを世話してあげます。この場合、ベッキーが美人だったらそこまでの親切もわからないではないのですが、ベッキーはごくごく平凡な顔立ちで、しかも極度に痩せていて、決して魅力的な女性ではありません。彼自身、母親や妹にベッキーのことを「痩せすぎの鼠」とか、「魅力を感じない」とかはっきり言ってますから、そうだとしたら、そのボランティア精神には頭が下がります。まあ、それも男爵で大金持ちの人間であるからこそできる余裕の行動なのでしょうか。

 さて、そんなふうにベッキーを酷評していたティーレが、彼女の世話を焼いているうちに、いつの間にか彼女にに興味を持ち、次第に愛するようになっていきます。ベッキーの方は本当は出会った時から彼に恋をし始めているのですが、それに気づくのはずいぶん後になってからのことで、それに気が付いた瞬間、彼女は絶望の淵に立たされます。「こんなことは月に恋するようなものだわ!」
 
 実際に、ベッキーとティーレは境遇的に天と地ほども離れていますが、ニールズの作品の中では、家柄とか環境的に釣り合っていると思われるカップルは私が読んだ範囲では1作品にしか出て来ません。ほとんどのカップルは、言うなれば身分違い。でも、ハンサムでお金持ちのヒーローが貧しくて美人ではないヒロインと恋に落ちる話は山ほどあります。それがロマンス小説だから当然と言えば当然ですが、でもよくよく考えると不思議じゃありませんか?容姿も家柄も財産にも恵まれたヒーロなら、どんな高スペックの女性でも振り向かせることができるし、口説くことも出来るし、そして確実に手に入れることも出来る。なのになぜほとんど何も持っていないようなヒロインを愛するのか。ほとんどの作品では、どうしてヒーローがヒロインを好きになったのかという説明はなされていないような気がしますが、この作品にはそのヒントになるようなことが書かれてありました。

 「美しさはいろいろな種類がある。君は森の奥にある小さな池を見たことがあるかい?それは素晴らしく美しいが、少しも華やかなところはない。ただ平穏で、静かなだけだ。しかし、途方もなく人をひきつける」とティーレはベッキーに言います。ああ、なるほど、そういうことか。と納得しましたが、悲しいかな、彼の次のセリフの意味がよくわからないのです。「美とは幸福の約束にほかならない」……これがこの作品の原題なんですけどね……。どういう意味なんだろう……?

 でもまあ、要するに、人間は外見ではなくて、心根なのだということなんですね。でも、その論理でいくと、美しいヒロインが、貧乏でハンサムでもない男性と恋に落ちるというロマンスがあってもいいと思いますが、それはそれ、やっぱり読んでる方としては、ヒーローはハンサムに越したことはないと思うのは私だけでしょうか。

赤毛のアデレイド

赤毛のアデレイド(原題:Sister Perters in Amsterdam  初版:1969年)

ヒロイン:アデレイド・ピーターズ(看護師)
ヒーロー:クーンラート・ファン・エッセン(医師 オランダ人)


 この作品は、べティー・ニールズの記念すべきデビュー作なのですが、実は、奇遇なことに、私が一番最初に呼んだニールズの作品なのです。ニールズの作品に出会う少し前にハーレクインに嵌りまして、リン・グレアムとかペニー・ジョーダンや、その他の作家の作品を手当たり次第に読んでいたんですが、ニールズのこの「赤毛のアデレイド」を読んだとき、何となく目からうろこが落ちたような気分になりました。
――こんな話もありなんだ――
 刺激的な男女の絡みがなく、ラブシーンと言えるのはキス・シーンだけ。しかもほんの数回。裏切っただの復讐だのといったどろどろとした愛憎劇とは全く無縁で、看護師交換制度でイギリスの病院からからオランダの病院に異動になったアデレイドの1年間が淡々と描かれています。登場人物たちはみな穏やかな性格で(もちろん、アデレイドの恋敵だけは違いますが)オランダの四季折々の風景だとか、習慣だとかが丹念に描かれていて、読んでいるうちに何とも心がほっこりしてくる。もちろん、アデレイドの恋路には多々邪魔が入るし、そもそも自分とクンラートとは住む世界が違う、と思っているアデレイドは自分の恋を諦めようとします。それがクーンラートが男爵であると知ってからはなおさらで……。

 クーンラートはたぶん30代の後半でしょう。40歳にはなっていないと思うのですが、とても大人の印象があります。それは多分、アデレイドとクーンラートが医師と看護師としての関係と言うよりは、イギリスから派遣されてきたアデレイドに対して、クンラートが責任をもっているという状況のためか、学生と先生の関係に似ているからかもしれません。もっとも、ニールズの小説、というよりハーレクインの小説ではヒーローが皆頼りがいのある大人なんですが、このクーンラートはそれまで読んだ作品のヒーローとは一味違うのです。
 ニールズがこのデビュー作を発表したのは1969年。話の内容自体は、これは現代の話だと言われてもあまり違和感がないのですが、ただ一つ、現在の作品と違うのは、ヒーローが子供の頃に戦争を体験しているという点です。実はクーンラートは戦争で両親を亡くしていて、おまけにその時の怪我が原因で片目が見えません(ニールズの初期には、こんな風に戦争でつらい子供時代を送ったヒーローが何人かいるのです)。大人になって爵位をついで、医師として成功した生活を送っていても、子供の頃の不幸な出来事が少しだけではあっても何となく陰を落している感じが、他のヒーローとは違うところなのかな、と思ったりもします。

 それにしても、私が感心するのは、この作品がデビュー作でありながら、すでにニールズワールドが完成されているという点です。いや、完成されているというか、実は私が読んだ80以上の作品の中で、私なりに完成度で点数をつけるとすれば、これは実はNo2くらいにランクインするんです。うん、完璧。

 何はともあれ、私はこの本でニールズに出会えて本当にラッキーでした。その時点ですでにニールズが亡くなっていたことが残念ですが、今生きていたとしたら102歳ですから、さすがにそれはねえ……。でも、91歳で亡くなるまで執筆活動を続けていたというのは、ほとんど驚異です。これから先新しい彼女の作品を読むことはできないけど、素敵なお話をたくさん残しておいてくれたことに感謝感謝です。

愛しのヤング・レディたち

愛しのヤング・レディたち

 前回、最後の方でBeatrixのかわいらしさについて書きましたが、今回はそれに関連して、ニールズの作品に出てくる脇役の中でも、少女の脇役について書いてみたいと思います。

 ニールズの作品の中には、ヒロインを励ましたり、助けたり、時にはヒーローとの橋渡し役になってくれる少女がよく出てきます。今まで紹介した作品の中では、「とっておきのキス」に登場するヒロインの妹エズミーや、「あなたのいる食卓」のヒーローの娘のポーリン、「ケーキで恋を」のヒロインの姪ペニー、それに、少女というには年齢が少し上になりますが、「夢の先には」のヒロインの妹キティなどがそれに当たります。でも、その他にも「ドクターと私」のヒロインの妹ポリーとか、「初めての恋」のヒロインの妹パメラとか、ニールズの作品の中には結構そういうキャラクターが登場してくる。皆ヒロイン思いで愛嬌があり、真面目で常識人のヒロインを補うかのように天真爛漫な少女たちです。

 実は彼女たちのようなキャラクターが出てくる話はあまり深刻なものにはなりません。彼女たちがヒロインとヒーローの関係が深刻にならないように口出しをする、ということではなくて、まだあどけなくて楽天的なキャラクターがヒロインのそばにいると、話の流れとしてシビアになることができないのだと思います。それに、彼女たちの存在は実はヒーローにとっても好都合で、ヒロインに妹や弟がいる場合、ヒーローはまず、彼らを味方にすることが多いのです。いや、味方にして、彼らに何か手伝ってもらうとかいうことではなくて、とにかく、妹(もしくは弟)たちに、自分のことを「義理のお兄さんとしては最高」と認識してもらう。つまり、彼らの心をつかんでしまうわけで、そう言った話の場合、一番最後に陥落するのがヒロインだったりするのです。

 少女とひとくくりにしても年齢の幅は大きく、たぶん、私が読んだ中で一番小さな天使は「クラッシック・ラブ」に出てきたヒーローの姪ロージー(1~2歳くらい?)、つぎが前回紹介したBeatrixかな?こんなに小さい少女は本当にただただ可愛いのです。そんな可愛い少女の養育のためにヒーローとヒロインが接近するという話がほとんど。
 次が「忘れえぬ面影」に出てくるネル(7歳くらい?)で、このくらいになると、大人の恋愛はまだわからないものの、少女らしい率直さを発揮してヒーローとヒロインが出会う機会を増やしてくれます。
 次がエズミ―やポーリンなどのようなティーンエイジャーで、このくらいの年代になると、そろそろ大人の恋愛感情というものもわかりかけてくるころで、ヒロインの恋路の手助けをしてくれるようになります。

以下、「とっておきのキス」からの抜粋

エズミ―:「姉さんはとても器用なのよ。ワープロや何かのことじゃないわ。ラスコンに負けないくらいお料理が上手で、縫い物もうまいの。いい人と結婚してくれたらうれしいんだけど…」
シモン;「大丈夫さ。むしろ結婚していないのが意外だよ」
エズミ―:「チャンスはいっぱいあったのよ。でも、デートする暇はないし、デートするにはすてきな服がたくさんいるし」

 姉がいかに妻として理想的かを売り込むだけではなく、さりげなく家庭の窮状をうかがわせるような説明もするという、意図的なのか、無意識なのかわかりませんが、エズミ―の心憎い気遣いです。

 さて、ヒロインの妹だからと言ってすべてがヒロインにとって助けになる存在かというとそうではなく、色々と酷いことをする妹も結構いるのですよ。「愛をはぐくんで」のユーニスとか、「ガラスの靴はなくても」のジョイスとか、まあ、他にもいろいろ。でも、そういう酷い妹はもう少女とは呼べない歳になっているし、大体は義理の妹、つまり、親の再婚相手の連れ子というパターンが多いです。

 ニールズの作品に出てくる素敵なヤング・レディたちは、一言で言えば「和む存在」。ともすれば、暗く、沈痛な方向に傾こうとするヒロインの心を明るく慰めてくれるなくてはならない存在です。


Damsel in Green

Damsel in Green(邦訳されているかどうか不明、初版:1976年?)
 

ヒロイン:Georgina Rodman(看護師)
ヒーロー:Julius Van den Eyffert(医師、オランダ人)
 

 季節とは裏腹に、前回同様、秋から新年にかけてのお話です。英文で読みましたが、読み終わるのに、2か月以上かかりました。ほとんど、歯医者と病院の待ち時間だけで読んでいたような気がします。長い時間がかかったし、よくわからないところは読み飛ばしたりしたので、内容的に間違っているところがあるかもしれませんが、ご容赦ください。邦訳版が出版されたら、しっかり読み直していただけたらと思います。

 この話に出てくる登場人物たちの人間関係はちょっと複雑なのですが、整理するとこうなります。Juliusの父親とKarelの父親は兄弟で、Karelの母親が亡くなった後に再婚した女性がJuliusの母親の年の離れた妹で、その女性との間に生まれたのがCornelis(愛称Cor。7歳)とBeatrix(5歳くらい)。つまり、Karelはこの二人の異母兄にあたり、もちろん、Juliusの従弟でもあります。実は、KarelとCorの間に、Dimphena(16歳)とFranz(年齢がちょっとわからないのですが)という二人の子供がいて、詳しく書かれていなかったのだけど、Franzが笑ったところがKarelに似ているという表現があったので、たぶんKarel、Dimphena、Franzの3人は母親が同じなのでしょう。そして、この兄弟の父親、つまり、Juliusの叔父が亡くなった時、Juliusはこれら5人の子供たちの後見人として面倒をみることになったのです。 

 さて、Georginaは病院の救急病棟で働いていましたが、そこへある夜、怪我をしたCorとBeatrixが運びこまれます。Beatrixは頭部の軽いけがでしたが、Corは足を骨折していて長期入院が必要となります。そこで以前からその病院にかかわりのあったJuliusは、Corを退院させて自宅で療養させるために、Georginaに住み込みでの看護を依頼します。Georginaは突飛で、しかも、丁寧ではあっても断れそうにないようなJuliusの頼み方に戸惑いながらも、結局は看護を引き受けます。一つには病院で看護をしているうちに、CorとBeatrixが大好きになっていたからで、もう一つにはJuliusに最初に合って以来、彼のことが頭から離れなかったからです。とどのつまりは、一目ぼれってやつです。

  恋愛小説って、例えお互いに人目一目見た瞬間恋に落ちたとしても、ヒロインとヒーローの間に何か障害がないと面白くありません。障害のない、幸せな2人の関係だけを描いたものはただののろけ話ですよね。だからニールズの小説には様々な障害(ヒロインには婚約者がいるとか、ヒーローに婚約者がいるとか、ヒーローが意地悪だとか)が出てきますが、この作品における障害は、ヒロイン側からすればヒーローがよそよそしいということで、ヒーローからすれば、Karelという、自分よりはずっとGeorginaに歳が近い従弟の存在、ということになると思います。
 Georginaにとって、Karelの存在は、弟みたいなものなので、全く問題ではないのですが、Juliusのよそよそしさは、ちょっと問題。家にいる間、ずっと制服を着ていること、と条件を付けるし、GeorginaのことをいつもMiss Rodman とか、nurseと呼ぶし、そもそも仕事で飛び回ってあまり家にいないし、新年はGeorginaとCorを置き去りにしてほかの子供たちを連れてオランダに行ってしまうし。これではGeorginaが「どうせ私は看護師としてしか見られてないんだわ」と思っても仕方ない。おまけに「もうすぐ結婚するんだ」とほのめかし、Georginaを落胆させます。ああ、このあたり、よくあるパターンだな。ヒーローはヒロインと結婚するつもりなのに、あえて誰と結婚するとは言わない……。機が熟するのを待ってるんでしょうかねえ。ヒロインにしてみたら迷惑な話だと思うのですが。とは言っても、結末はいつものハッピーエンドなので、ご安心ください。この二人の結婚後の幸せな生活については、“A Small Slice of Summer”に出てきます。

 ところで、私がこの作品で一番押したいのは、実はヒーローでもヒロインでもなくて、Beatrixなんです。もう、本当にかわいいんです。邦訳版でもこのかわいらしさが省かれることなく描かれたらいいなあと思っています。

 

運河の街

運河の街(原題:The Fateful Bargain、初版:1989年)

ヒロイン:エミリー・グレンフェル(看護学生)
ヒーロー:セバスチャン・ファン・テックス(医師、オランダ人)

 これは最初に英文で読んで、それからどうしても日本語で読みたくて買った本、そう、私のお気に入りの一冊です。
 エミリーは数年前に母親を亡くし、看護師になるために見習い看護師としてロンドンの病院で働いています。リウマチのために歩けなくなった父親の手術費用を貯めようと、切り詰めた生活をしていて、容姿も平凡で、周囲の男性からは感じのいい子と見られていても、デートに誘われることなどほとんどなく、ひたすら地味な生活を送っている……、そんな時、出会ったのがオランダからエミリーの働く病院にやってきたセバスチャンです。
 普通なら、セバスチャンのような偉い顧問医がエミリーのような平凡な看護学生を気に掛けることはないのですが、セバスチャンにはある目的があり、その目的のためにエミリーに近づいていきます。それは、ポリオを患って以来、足が動かなくなった彼の妹の看護(看護というか、励まして、歩くための練習を続けさせるため励ます)をエミリーに頼むということでした。その代わりに、彼はエミリーの父親が歩けるようになるための手術をする(経費の一切をセバスチャンが負担した上で)という、ある意味、取引を申し出るのです。看護学校での訓練期間があと1年残っているエミリーは、訓練が中断されることを不満に思いますが、それでも、父親の足が元通りになるのなら、しかも費用がかからないというのなら、こんないい条件を飲まない手はありません。エミリーはセバスチャンの妹の看護を引き受け、オランダに渡ります。

 話は、オランダの小都市デルフトを舞台にして、淡々と進んでいきます。エミリーがセバスチャンの屋敷を物色していた窃盗犯に詰め寄り、殴られ気絶するという事件が起こりますが、それ以外はルシーリア(根は素直ないい娘なんだけど、超わがままになる時がある)にどうリハビリをさせるかという事と、セバスチャンが連れてきた友人の弟ディルクとルシーリアの恋の芽生えが中心で、あとは聖ニコラス祭りやクリスマス、新年などのオランダの風習が紹介されていて、肝心のエミリーとセバスチャンの関係は全くと言っていいほど進展しません。エミリーはルシーリアと話をしている途中で、自分がセバスチャンに恋をしていることに気が付きますが、自分と彼とでは境遇が違い過ぎると最初からその恋をきっぱり諦めようとするし、セバスチャンもオランダに戻ってから次第にエミリーから距離を置きはじめ、エミリーが強盗に襲われてからはますますよそよそしくなって行くのです。

 これは好みの問題なんですが、私は勝気な女性より、控えめな女性の方が好きだし、自分の気持ちに正直に行動する女性より、思慮深くていろいろなことを考えた挙句、自分から諦めてしまうような女性の方が好きです。今の社会では、明らかに「負け組」に入れられてしまうであろうとわかっていても。
 自分に自信を持っていて、欲しいものを手に入れるためにはどんな努力も惜しまない、そんな人しか人生の勝利者になれないような今の世の中で(もちろん、そんな逞しい人たちの努力や行動力には心から敬意を払います)、自慢できるものは何一つ持っていなくて、好きになった男の人もすぐに諦めてしまうような女性でも、ちゃんとその優しい心根をわかってくれて、愛してくれる王子様のような最高の男性が現れる。現実にはほとんどありえない、そんなおとぎ話がちりばめられているのがニールズのロマンス小説で、それが私を引き付けるのであり、それが私の癒しになっているのです。

 だから、エミリーはそんなニールズ作品のヒロインの代表選手と言っていいでしょう。そして、セバスチャンはエミリーの父親に最後の手術をした後、エミリーを捕まえて言うのです「初めて会った時から君を愛していた」と。現実では「ありえねー」と思ってしまう設定でも、いや、もしかしたら、この世の中に一つ二つはあるかもしれない。でも、もしなくても大丈夫。ニールズの作品があるからね。

 

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HN:
Mrs Green
年齢:
58
HP:
性別:
非公開
誕生日:
1965/07/23
職業:
主婦
趣味:
ありすぎて書ません
自己紹介:
夫と子供2人の専業主婦です。
宮崎生まれで、現在沖縄に住んでいます。
青い海も好きですが、それよりふるさとの緑の山々が恋しい……。
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